温床

 乳白色の肌を見に上京する。
 平日だし会期も終盤だしという予想を裏切り、わんやの盛況ぶり。そんなに人気あったのか藤田さん。じいちゃんばあちゃんをかき分け鑑賞。絵の前はライブハウスなみの密度。猫を懐に抱いた画伯の自画像がかっこいい。理性は「おかっぱで丸メガネのチョビひげですよーいんですかー」と忠告するが絵の中の画伯と目があってしまい逸らせない。本とかで見たときは全然普通だと思ったんだが…実物はイケメンでした(絵が)。冷たい目が実に好み。
 チラシの人形に魅かれて工芸館にも足を延ばす。坂上のヒンヤリした洋館。ひっそりした展示室に人形「すぐり」ちゃん(吉田良:作)はいた。すぐりちゃん。薄い色の目で紅い着物の合わせから華奢な鎖骨をチラ見せしてちょっとだけ口を開けててちょうかわいい。オレが怪盗なら盗みにくるよ間違いなく。これが国家所有で良かった、じゃなかったらすぐりちゃんを巡って殺人とか起きかねない、もしや人でなしが恋したのはすぐりちゃん?くらいにステキ。もしすぐりちゃんを手に入れたら一日中見てるね。見てるだけじゃなくあれやこれやしちゃうね。で、もうすぐりちゃんとふたりきりで閉じ籠もって部屋からはぶつぶつ喋る声やけらけら嗤う声とあと衣擦れの音が聞こえてきて誰にも会わなくなって食事もしなくなってもうすっかり世間様から忘れられた頃にものの腐る匂いがして近所の人の通報により立ち入った警官に変死体となり発見されるね。でも不思議なことに人形はどこにも見当たらないのです。…魔性だなーすぐりちゃん。
 午後はポスタルコという変な店を見て八重洲ブックセンターでたまたまあってた乱歩資料展示を覗く。春陽堂の乱歩文庫表紙を飾る多賀新さんの作品も飾られている。モノクロ極細線の作品達はぬめぬめと妖しい。エログロ繊細。自分もかくありたいものです。